非常ボタン



エレベータには、必ず非常用のボタンがついている。
黄色で受話器マークかなんかの、横に「係員と直接話せます」とか書かれている、あのボタンである。


非常ボタン。
それを押すときは、非常事態であって好ましい状況ではない。
なのに、小さい頃のあのボタンを押してみたい衝動は何だったんだろう?
いや、むしろ押してはいけない禁断のボタンだから押したいのか?
とにかく、とってもドキドキなボタンだったのですよ。


高校生ぐらいになると、別の魅力にも気が付く。
「あのボタンを押す状況」=「密室に男と女」=「恋」である。
しかも、ただの恋じゃない。波乱含みの大恋愛だ。
「図書館で同じ本を同時に取ろうとして手が触れる」っていうのなんて目じゃねーよ!
そんな、ほのかな恋が芽生えるストーリーじゃないんだよ!


・・・と、何で熱くなっているのかわからんけど、とにかく非常ボタンには、夢とロマンがある魅力的なボタンだったわけですよ。




さて、大学時代。
メールをチェックしに、コンピュータルームに向かう僕。
エレベータで7階へ。
いや、いまから思えば、なんかちょっと変な音がしてたんですよ。
でもその時は、大して気にもしてなかったの。


5階を過ぎたときぐらいから、ものすごい音がしている。
「外で、誰かがとびらを蹴ってるのかな?」とか思ってると、6階を過ぎて、さらにデカイ音がする。
そして止まった。
・・・。
うん、とびらが開きませんね。あはは。
っていうか、明らかにいまは「6.5階」くらいの場所だよね。ううぅ(T_T)


たまたま、僕がボタンパネルのところに立っていたの・・・。
はっ!
非常ボタン!!!
そう、あのボタンを押すときが来たのです!
まさかエレベータ会社に就職もせずに、ホントに非常ボタンを押す瞬間がやってくるとは。


(なるべく冷静に、でも内心バクバクしながら非常ボタンを押し続ける僕)
係員の声「はい、どうなさいました?」
僕「エレベータが止まってしまって動きません」
係員の声「外には出られますか?」
僕「とびらが開かないので、出られません。閉じ込められた状況です」
・・・
(この後、ボタンの上にある番号を読みあげて、救助の説明を聞いた)


で、救助を待っているエレベータの中。
僕の他には、男性が3人くらい。あと、カップルが一組。
以上。
いや、密室に男(たち)と女だけど、そういうことじゃないし。
恋なんて生まれるわけないし。
ピッチ(当時)はつながらないし。


「ビックリですね」程度の話と、ヘラヘラ愛想笑うくらいしかやることがない。
あー、一人だけミニテトリス(当時プチブーム)をやってた気もする。


とにかく、気まずい時間が過ぎること20分。ようやく救助隊到着。
さらに10分後、7階から引き上げられて救助完了。




ちなみに、メールは1通もきてなかったので、故障中のエレベータを横目に階段をおりて帰りました。




非常ボタンのバカ!